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東京高等裁判所 平成8年(行コ)107号 判決

控訴人

濱安雄

右訴訟代理人弁護士

山根二郎

被控訴人

諏訪市長

笠原俊一

右訴訟代理人弁護士

中山修

右訴訟復代理人弁護士

山岸重幸

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し平成四年二月二四日付けでした墓地経営不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一項同旨

第二  事案の概要

本件は、自己所有地に分譲用の墓地を建設してその区画を二一名の者に転売することを企図した控訴人が、二二名(控訴人及び右二一名の区画分譲希望者)の共同墓地経営者の代表として、地方自治法一五三条に基づく「市町長村長による事務の委任に関する規則」(昭和五五年三月二七日長野県規則第七号)により長野県知事から墓地、納骨堂又は火葬場(以下「墓地等」という。)の経営の許可に関する権限を委任された被控訴人に対し、墓地経営の許可申請をしたところ、右申請は許可要件に該当しないとして不許可とされたことから、右処分は墓地、埋葬等に関する法律(以下「法」という。)の解釈を誤り、ひいては憲法二〇条にも違反し、法により被控訴人に付与された権限を逸脱または濫用するものであるなどと主張して、その取消しを求めたものであり、原裁判所は、本件不許可処分はその理由とするところに一部問題があるけれども、結論において正当であるとして控訴人の請求を棄却したため、控訴人が控訴を提起した事案である。

一  判断の前提となる事実(当事者間に争いがないか証拠上容易に認められる事実)

1  原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の近くには旧諏訪藩主の墓地があり(その中には市営墓地もある。)、本件土地の諏訪藩主廟参道をはさんだ西側向いに臨済宗「温泉寺」もあり、周辺は墓地が多い地域であるが、その南ないし西側には比較的間近に人家がある。

2  控訴人は、かねてから諏訪市内で不動産業を営んでいたが、本件土地の元の所有者の北澤家が破産し、その破産者被相続人北澤國男相続財産の破産管財人輿石睦弁護士から本件土地付近の土地を買い取った(所有権移転登記は昭和五八年一二月一九日)。

3  控訴人は、控訴人ほか二三名の代表者として、先に昭和五八年九月二七日、諏訪市大字上諏訪字並松一〇六八三番七畑二〇四平方メートルにおいて、二四区画の個人共同墓地を経営したいとして、控訴人を代表とする墓地経営許可申請書を提出した。右申請書には、前記輿石睦弁護士作成の土地所有者承諾書及び隣地所有者河西常吉ほか二名の墓地経営に関する隣地所有者の承諾書等関係書類が添付されていた。被控訴人は、同年一〇月八日、控訴人に対し、墓地経営を許可する旨の通知をした(甲第八号証の一ないし二七、乙第五号証)。

4  ところが、その後付近住民より右墓地経営について反対運動が起こり、昭和五八年一一月五日、北原寛ほか四一名から被控訴人に対し、民家から二〇〇メートル以内であること等を理由に、右墓地経営の許可を取り消すよう求める陳述書が提出され、更に昭和五九年六月一五日と一九日には並松共同墓地反対協議会の名で組織的に反対する前記北原寛ら住民の陳述書が出された(乙第六ないし第一〇号証)ため、諏訪市職員は、控訴人と反対派住民との双方に協議を求めるとともに、双方の中に入って話し合いを続けた。控訴人は同年一二月三日、被控訴人に対し、同年一一月二〇日付の関係住民の同意書を添付して区画を当初の二四区画から二二区画とする変更申請を提出したので、諏訪市の金子助役は、同年一二月一七日、当初案の中の北西側の三角地部分(32.24平方メートル)を墓地予定地から除外し、二二区画の申請に対し二一区画を許可する調停案を示し、控訴人ら及び反対派住民双方がこれを了承したため、被控訴人は、昭和六〇年二月二一日その旨の変更申請を許可し、これを通知した(乙第一七号証の一、二、第一八ないし第二一号証)。控訴人はその後右二一区画について許可された土地の範囲を二六区画に分筆して地目を墓地と変更し、これをすべて第三者に分譲売却した(乙第二三号証の一ないし二六、第五一号証)。

5  ところが、それから約三年九か月経過した昭和六三年一二月一〇日ころ本件土地の近隣者から被控訴人に対し「昭和六〇年に面積が縮小され許可の範囲外となった場所で控訴人が墓地造成工事をしている」との通報があり、諏訪市職員が現地を確認したところ、控訴人が前回許可済みの土地に接する本件土地付近で無許可で墓地造成工事を行っていたこと、前回許可済みの墓地についても二一区画を超えて二六区画の墓地を造成していたことが判明したので、そのころ、諏訪市担当者は電話で右工事の中止を申し入れ、更に被控訴人は、平成元年四月一三日控訴人に対し文書で墓地造成中止命令を発した(乙第二四号証)。

6  その後平成元年六月二七日、控訴人は本件土地について、控訴人ほか二一名の共同墓地経営に関する同意書を添付した上、経営しようとする理由として墓地希求者が適地として墓地共同経営をする旨を記載した墓地経営許可申請書を提出したが、被控訴人は区長の同意書及び近隣者の同意書が添付されていないとの理由で同年七月一一日これを返戻した。控訴人からは同月二〇日、再度右墓地経営許可申請書の提出があったが、被控訴人は同年八月五日区長の同意書が添付されていないとの理由で再度右申請書を返戻した(乙第二五号証)。その後控訴人と反対派住民との間で諏訪市職員も中に入っての話し合いが行われたが、話し合いがつかないまま控訴人は平成三年六月一五日、被控訴人に改めて本件許可申請書を提出した。被控訴人は、前同様の理由からいったんは右申請書を返戻したが、控訴人から諏訪簡易裁判所に本件許可申請書を被控訴人が受理することを求める調停申立てがされ、調停委員から受理を勧告されたため、被控訴人は同年一一月二九日付けで右申請を受理した(乙第三〇ないし第三四号証、第六八、六九号証、本件許可申請の内容については控訴人第一号証の一ないし二七)。

7  被控訴人は、本件許可申請に対し、平成四年二月二四日付墓地経営不許可通知により、墓地等の経営主体は、永続性と非営利性を確保する趣旨から原則として地方公共団体とし、これにより難い事情のある場合にあっても宗教法人、公益法人等に限られ、また、対象地は、人家等ふくそう地から二〇〇メートル以上の距離を有することが必要であるが、本件許可申請に係る墓地経営(以下「本件墓地経営」という。)はいずれの要件も具備していないとの理由により本件不許可処分をした。控訴人は、平成四年三月一八日長野県知事に対して、行政不服審査法上の審査請求をしたが、平成五年四月七日棄却された。

二  争点

本件の争点は、次のとおり当事者の主張を付加するほかは、原判決「第二事案の概要 二 争点」(原判決書六頁一行目から一二頁一〇行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

(本件処分の適否についての当事者の補足的主張)

1 控訴人

本件許可申請に係る本件土地の周辺は古くからの墓地地帯であり、諏訪湖を見下ろせる山の中腹にある。同所のすぐ上には旧諏訪藩主の墓もある景勝地であって、墓地としてこれ以上の適地はないと言っても過言ではない。そして、控訴人は、本件土地を昭和五八年一二月一六日、売買により所有権を取得したのであるが、これは破産した前所有者の破産管財人から、国の破産手続への協力を依頼され、「墓地適地」と言われて購入したものである。控訴人自身も本件土地の隣地で個人の共同墓地経営の申請を許可されたこともあるし、別の第三者が本件土地のすぐ近くの場所で個人墓地の共同経営の許可を受けたこともある。このような経緯からしても、個人墓地であることを理由として不許可の理由とすることはできない。

しかも、本件土地の約半分(原判決別紙物件目録六ないし一二の土地)は、申請前に既にその地目は「墓地」となっているのであって、このことを見ても、本件土地が墓地として極めて適地であることを示している。被控訴人は、本件土地を墓地として使用することについて、付近住民から多くの反対があると主張するが、墓地埋葬等に関する法律及び同法施行細則を見ても、付近住民の同意は、墓地経営を許可する前提条件となっていない。しかもその反対者の数は本件不許可処分時においてはごく僅かである上反対者のほとんどは本件土地から離れた所に居住しており、本件土地が墓地として使用されても、墓地化による何らの痛痒も感じない者ばかりである(逆に本件土地の隣接地の所有者である茅野芳久は、本件土地が墓地として使用されることを積極的に望んでいる。)。反対者の反対の理由は、単に控訴人を困らせようという個人的感情に基づくもので、本件土地を墓地として使用することへの合理的理由を全く欠くものであり、このようなことから、反対者がいることを本件墓地経営の不許可の理由とすることはできない。

2 被控訴人

(一) 控訴人は、控訴人ほか二三名の代表者として、昭和五八年九月二七日、諏訪市大字上諏訪字並松一〇六八三番七畑二〇四平方メートルにおいて、二四区画の共同墓地を経営したいとして、控訴人を代表者とする墓地経営許可申請書を提出し、右申請書には、隣地所有者河西常吉ほか二名の墓地経営に関する隣地所有者の承諾書等関係書類が添付されていた。

被控訴人は、厚生省の指針の下に、個人墓地経営の許可に対しては慎重な姿勢をとってきたが、墓地の立地条件には様々のものがあり、周囲の同意がある場合などは前記の原則にもかかわらず例外的に許可する場合もあった。そして、被控訴人は、控訴人の許可申請書に隣地所有者の承諾書なども添付されていたことから、付近の住民らの了解も得られているものと考え、同年一〇月八日、控訴人に対し、墓地経営を許可する旨の通知をした。

ところが、その後付近住民より右墓地経営について反対運動が起こり、その経過をふまえて昭和五九年一二月三日、控訴人から区画を当初の二四区画から二二区画とする変更申請が出されたため、諏訪市の金子助役(当時)は同月一七日、当初案の中の北西側の三角地部分(32.24平方メートル)を墓地予定地から除外し、二二区画の申請に対し二一区画を許可する調停案を示し、双方がこれを了承したため、被控訴人は同年二年二一日、その旨の変更申請を許可した(乙第二一号証)。

このように、控訴人が計画しているいわゆる並松墓地については、昭和五八年一一月以降付近住民による強い反対運動があり、諏訪市職員が中に入って控訴人と反対派住民との話し合いがなされ、最終的に、前記のように金子助役の調停案(いわゆる「助役仲裁」)により決着した経緯がある。

右の話し合いは、一年以上にわたり何度も行われた後最終的に双方互譲により成立したものであるから、法律上の和解契約に該当する。そして、右和解契約の内容は、控訴人の昭和五九年一二月三日付変更申請のうち北西の三角地部分(32.24平方メートル)をカットするというものであるから、当然反対派住民においては右三角地部分より東側部分については、控訴人の墓地経営を認めるとともに、控訴人においてカットされた右三角地部分とその西側部分については以後墓地経営をしないという内容を黙示的に含むものであった。したがって、本件墓地経営許可申請は、右合意に反し許されない。

(二) 控訴人は、墓地経営主体としての適格性を有しない。

控訴人は、昭和五九年一二月三日付で変更申請した並松墓地の経営許可について、昭和六〇年二月二一日、二一区画を造成するとの内容で許可を得たところ、控訴人はその後右許可された土地の範囲を二六区画に分筆し、これをすべて他人に分譲売却した。その後諏訪市職員が登記簿を調査したところによると、分筆分譲された墓地二六区画の墓地所有者中九名が無許可の者(前回の許可申請において「共同経営者」とされた者以外の者)であることが判明した(乙二の1及び2)。

しかして、本件墓地経営許可申請は、形式上控訴人が二二名の個人の代表として個人の共同墓地の経営許可を申請する形をとっているが、控訴人は、本件土地を控訴人が個人で営む不動産業「浜不動産」の商品として仕入れ、本件土地は右不動産の在庫商品となっているもので、控訴人は本件土地を墓地に造成後、商品として二一名の者に売却しようとしているにすぎないのである。

ところで、墓地の経営主体については、昭和四六年五月一四日付環衛第七八号厚生省環境衛生課長通知に基づき「原則として地方公共団体とし、これによりがたい場合であっても、宗教法人・公益法人等に限る」とされ、「いやしくも営利事業類似の経営が行われないよう」配慮することが求められている。控訴人は形式上はあたかも自分も共同墓地経営者の一人であるかのような申請をしているが、申請者二二名に対して区画数が二一しかないこと、前回の墓地許可申請においても、控訴人は二一区画の許可しか得られなかったのに二六区画に細分造成し、これらをいずれも第三者に売却したこと等から考えると、控訴人は、個人墓地の「共同経営者」ではなく不動産業者として墓地を分譲しようとしているにすぎないことが明らかである。

第三  当裁判所の判断

一  控訴人の原告適格について

当裁判所も、本件においては控訴人の原告適格を肯定でき、被控訴人の本案前の主張は採用することができないと判断する。その理由は、原判決「第三当裁判所の判断 一 原告適格について」(原判決書一三頁一行目から一五頁八行目まで)と同一であるから、これを引用する(但し、原判決書一三頁九行目の「前判示第二の一の1ないし3」を「当判決書第二の一の1ないし7」に改める。)。

二  処分理由の適否について

当裁判所も本件墓地経営許可申請を不許可としたことは正当であり、本件不許可処分に違法性は認められないと判断する。その理由は、次のとおり訂正するほかは原判決「第三当裁判所の判断 二 処分理由の適否について」(原判決書一五頁九行目から二四頁七行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決書一六頁四行目の「墓地等の経営は、」から七、八行目の「考えられることに徴すれば、」までを削り、同一八頁六、七行目の「墓地の経営が本来的には国民の自由になし得るものであるとしても」を「墓地の経営については」に改める。

2  原判決書一九頁七、八行目の「しかしながら、」から二〇頁一一行目「いうべきである。」までを、次のとおり改める。

「これに対して、右以外の例えば株式会社を始めとする営利を目的とした団体や個人が墓地経営の主体となる場合にあっては、一般的に、墓地の永続性、健全経営の確保の見地からは右に掲げた公益法人等に比較すれば不確実であることは否定できないし、法一八条や一九条によって行政庁に付与された権限に基づき指導監督を行うについても、自ずから限界があると考えられるから、一般的な指針として墓地の個人経営(共同経営の場合を含む。)については、山間へき地などで手近に墓地を得られず墓地の新設の必要がある場合や、既存の墓地を利用できない場合等例外的な場合のみに限定して許可するとしてきた行政実務も合理性がないとはいえない。

もっとも、墓地経営許可申請に当たり、経営主体が公益法人、宗教法人以外の団体や個人の場合であっても、申請地の立地条件や周辺の住民の意向、当該団体または個人のこれまでの宗教的その他の活動の内容と実績、責任者の資質等から、墓地経営の永続性、健全性において公益法人・宗教法人の場合と比較して遜色がないと判断される場合には、法一条の目的達成上墓地経営の許可が与えられるべき場合もあると考えられるから、申請に係る墓地経営主体が単に個人という一事から直ちに申請を不許可にするということは相当ではないといえる。しかし、本件の場合には、控訴人に右に述べるような公益法人等の場合と同等の墓地経営の永続性、健全経営性の面での適格性があり、個人経営墓地として例外的に許可を相当とするような事情は本件証拠上認め難い。

かえって、証拠(甲第八号証の一ないし二七、乙第二号証の一及び二、二三号証の一ないし二六、二四号証、原審における証人太田頼永、控訴人本人)によれば、前記のように、

ア 控訴人は、控訴人ほか二三名の代表者として、昭和五八年九月二七日、本件土地に接する諏訪市大字上諏訪字並松一〇六八三番七の二〇四平方メートルの土地において二四区画の共同墓地を経営したいとして、控訴人を代表者とし、隣地所有者の承諾書等関係書類を添付して墓地経営許可申請書を提出し、被控訴人は、同年一〇月八日、控訴人に対し墓地経営を許可する旨の通知をした。

イ ところが、その後付近住民より右墓地経営について反対運動が起こり、前記のような経緯から昭和五九年一二月三日、控訴人から被控訴人に対し、区画を当初の二四区画から二二区画とする変更申請が出され、諏訪市の金子助役において、当初案の中の北西側の三角地部分(32.24平方メートル)を墓地予定地から除外し、二一区画のみについてを許可する調停案を示し、双方がこれを了承したため、被控訴人は、同年二月二一日、その旨の変更申請を許可し、これを通知した。ところが、控訴人は、その後右許可された土地の範囲を二六区画に分筆し、これをすべて第三者に分譲売却した。その後諏訪市職員が登記簿を調査したところによると、分筆分譲された墓地二六区画の墓地所有者中九名が無許可の者(前回の許可申請において「共同経営者」とされた者以外の者)であることが判明した(これらの分譲した墓地について控訴人が現在も管理を続けていると認めるに足りる証拠はない。)。

ウ 更に、その後約三年九か月経過した昭和六三年一二月一〇日ころ、本件土地の近隣者から被控訴人に対し「前回面積が縮小され許可の範囲外となった場所で控訴人が墓地造成工事をしている」との通報があり、諏訪市職員が現地を確認したところ、控訴人が無許可で墓地造成工事を行っていたことが判明したので、そのころ、諏訪市担当者は電話で右工事の中止を申し入れ、平成元年四月一三日、被控訴人は控訴人に対し、文書で墓地造成中止命令を発した。

以上の事実が認められるところ、被控訴人において控訴人の当初の申請をいったん許可しながらその後の反対運動の高まりによりこれを事実上棚上げし、規模を縮小する形で事態の収拾を図ろうとしたことは行政の一貫性の観点からは批判の余地なしとしないが、他方において被控訴人がした許可は最終的に二一区画とされたのに控訴人が無断でそれを二六区画に造成した上これをすべて他に分譲売却したり、その後更に本件土地付近で無許可で墓地を造成しようとした経緯に照らせば、被控訴人において控訴人の営利目的を疑い、墓地経営の永続性や健全性の観点から墓地経営者の要件を具備しないことを一つの理由として不許可処分をしたのも無理からぬ事情があったというべきである。なお、甲第一七号証によれば、昭和四八年に北原愛子ほか二七名が個人の資格で共同墓地経営の許可申請をしたのに対し、被控訴人は諏訪保健所長に「新世帯の増加により既設墓地への収容が不可能であり、また墓地埋葬等に関する法律施行細則三条にも合致しているので許可しても差し支えないものと認める。」旨の意見書を提出している事実が認められ、また前記のように控訴人の昭和五八年九月の当初申請も申請通りの内容でいったんは許可されており、これらのことに照らすと、被控訴人においてもかつては個人共同墓地経営許可申請の場合であっても、申請地の立地条件(既設墓域に隣接していることや周囲の環境)や周辺住民の同意がある場合などには、墓地経営の主体について必ずしも厳格な要件を求めることなく許可を与えてきたことが推認される。しかし、当時と本件許可申請時以降では諏訪市における墓地を取り巻く環境や墓地等の施設に関する周辺住民の意識も異なってきていることは容易に推測されるところであり、しかも本件の場合には本件土地を個人の共同墓地とすることについては周辺の少なからぬ数の住民からの強い反対の意向が示されていること等に照らすと、これら既往の許可事例をもって直ちに本件の申請も許可されるべきであるとする根拠とすることはできない。

そうすると被控訴人において、墓地経営主体が個人であることを本件不許可処分の一つの理由としたことが合理性を欠くものとはいえず、裁量の範囲を逸脱した違法のものであると認めることはできない。」

3  原判決書二二頁三行目の「信教の自由」の前に「憲法二〇条の」を、同頁七行目の「乙第三号証の一、二」の次に「、第七九号証、第八〇号証の一ないし四」を、同頁九行目から一〇行目にかけての「場所であることが認められる」の次に「(乙第七九号証、第八〇号証の一ないし四によれば、本件土地の北東側は墓地や諏訪家廟所、温泉寺など墓所が多い地域であるが、本件土地の南側や西側は人家や数メートルないし数十メートルの近くまで迫っていることが認められる。)」をそれぞれ加える。

4  原判決書二二頁一一行目から同二三頁一行目にかけての「墓地固有の公衆衛生上の問題点」を「墓地固有の公衆衛生上の問題や死者の遺骨等の埋葬に対する畏れの感情等の問題」に改める。

5  原判決書二四頁三、四行目の「認めることができないことは明らかである。」の次に改行して以下のとおり加える。

「なお、控訴人は、本件申請地が人家等ふくそう地から二〇〇メートル以上の距離を有していないとしても、施行細則三条但し書の『地勢の状況により公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認められる場合』に該当することの一つの理由として、①本件申請地の墓地化に反対しているのはごく一部の者に限られ、しかもこれらの者は本件申請地と離れた場所に居住し、反対の理由も単に控訴人を困らせようという個人的理由にすぎないこと、②本件土地のうちの一部は既に地目が「墓地」となっていることを挙げる。

しかしながら、①の点については、本件土地の墓地化に反対している者の反対理由が単に控訴人を困らせようとの個人的理由に止まるとは本件証拠上必ずしも認め難いし、乙第七三ないし第七八号証及び弁論の全趣旨によれば、本件申請地周辺に居住する相当多数の者が供え物の腐敗、参拝のための交通渋滞等による環境悪化等を理由として反対していることが認められる。

また、②の点については、たしかに原判決別紙物件目録六ないし一二の土地の地目は「墓地」となっていることが認められる。しかし、その経緯は、乙第五一ないし第五五号証、第五六号証の一ないし一八、第五七号証の一ないし八、第五八号証の一ないし八によれば、控訴人は昭和六〇年四月一〇日、一〇六八三番七畑二〇四平方メートルについて墓地とする地目変更登記を行ったが、これはその前の昭和六〇年二月二一日の変更許可により元来は同土地の北西部分の前記の三角地部分を除いた部分についてのみ墓地経営許可となったにもかかわらず同土地全体について墓地としての地目変更を行ったものであること、その後控訴人は一〇六八三番七の土地から、昭和六〇年四月一五日に墓地としての区画をした同番二五ないし四二の土地を分筆し、同年五月一三日に同番四三ないし五〇の土地を分筆し、更に平成元年四月七日に一〇六八三番七の土地から原判決別紙物件目録六ないし一二の七筆の土地(これらは墓地経営の許可の対象から除かれた三角地部分に当たる。)をそれぞれ分筆したので、これらの土地の地目は自動的に「墓地」となったことが認められる。そうすると、原判決別紙物件目録六ないし一二の土地の地目が「墓地」となっているとしても、これは元来は昭和六〇年二月二一日の変更許可の際には許可の対象外とされた土地であるから、控訴人とはその後行った地目変更の対象から外すべきものであったものであった。のみならず、不動産登記法上土地の地目が「墓地」とされたからといって、墓地、埋葬等に関する法律の適用上当然に右土地が墓地経営の許可の対象となるべき土地となるとはいえないから、この点の控訴人の主張は理由がないというべきである。」

第四  結論

そうすると、本件処分を適法とした原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒井史男 裁判官 大島崇志 裁判官 豊田建夫)

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